森の図書館

森の図書館

浪板海岸を見渡す高台に、2012年4月に開館した「森の図書館」。ここは「図書館」という名は付いているが、個人のお宅の庭にある私設図書館で、完全予約制。庭にある石造りのコテージ風の建物の中に本を並べ、子どもたちに向けて開放しているものだ。周囲は美しい芝生の広場と花壇、そして木漏れ日に輝く森に囲まれている。

図書館の主は佐々木格(いたる)さん。図書館の横に自宅を構え、訪れる人を朗らかな笑顔で迎え入れてくれる。

森の図書館

佐々木さんはかつて会社員として働いていたが、早期退職後、この高台に家と土地を買い、庭師をしながら少しずつ自分の庭園も造ってきた。「元々の目的は、東京に出て行った私の子ども達と、いずれ生まれるであろう孫たちに、本当の“田舎らしい田舎”を作ってあげたいというものでした。」
そんな折に震災が起き、自宅から見下ろす浪板海岸を津波が襲った。街は破壊され、多くの方が命を落とした中で生き残った佐々木さんは、「自分は生かされた」という感覚になったという。
そして、これまでは、庭づくりも家づくりも自分個人や家族のためにやってきたが、震災以降は、「この生かされた命を、誰かの役に立つことに使いたい」と考えるようになった。

森の図書館

そういった考えの中で最初に設置したのが、庭の一角にぽつんと立つ電話ボックス「風の電話」だ。この“電話線の無い電話ボックス”は、親しい人を亡くした被災者が、空にいるその人と、静かに対話をするための場所。「せめて一言、最後に話をしたかった人は多いはず」。そんな思いを込めた。
「風の電話」は話題となり、いくつかのメディアでも紹介された。その取材で訪れた出版社の方との対談の中で、「大槌町では震災で図書館が無くなってしま い、子どもが読書をできる環境が無くなってしまった」という話が出たことがきっかけとなり、「森の図書館」が生まれたという。

森の図書館

呼びかけで集まった数千冊の蔵書のうち、主に子ども向けの書籍を選んで開架。本は室内のテーブル以外にも、外の芝生に持ち出して読めるようにした。
また、今後は子供たちの作品を展示するギャラリースペースとしても利用できるようにしたいという。
佐々木さんが目指しているのは、単に本を読むための場所ではなく、自然やアートと触れ合って、子どもたちの感性を育てることができる環境としての「図書館」なのだ。

「何でも揃った都会であれば、図書館は図書館の役割だけをしていれば良いでしょう。でも今、大槌はあまりにもいろいろなものを失ってしまった。だから、森の図書館は単なる図書館ではなく、子どもたちの遊び場にも、ギャラリーにも、ワークショップスペースにもならなくてはいけないのです。」

「風の電話」や「森の図書館」の活動は、被災地に限らず、悩みや喪失感を抱える人の「心のケア」の分野に広がっていった。今では遠方から、障がいや心の病を持った子どもが訪れることもあるという。
取材で訪れた日には、盛岡の絵画教室「アトリエすみれ」「アトリエこだま」の子どもたちの作品を展示する「くじらやま元気展」の準備が行われていた。

森の図書館

「森の図書館」を開いた後、佐々木さんの庭には沢山の人々が訪れるようになり、その中で、新たな出会いやアイデアが生まれている。
「今やろうとしているのは、敷地内にツリーハウスをつくることです。(図書館のような)石造りの家は、つくるのに時間がかかりますが、ツリーハウスであれば比較的短時間で完成します。ハンモックも吊るして、くつろげる場所にしたいですね。」

ツリーハウスづくりは、仮設住宅に住む地元に男性にも手伝ってもらう予定だという。被災後、女性は「お茶っこ」など外に出て人と触れ合う機会も多いが、男性は家に閉じこもりがち。そんな男性陣を引っ張り出して、一緒に作業をしよう、というのも狙いのひとつのようだ。

森の図書館

「まだ構想段階ですが、図書館のような石造りの家についても、ボランティアの皆さんにも手伝ってもらって、もう少し増やしてみたいなと考えています。大槌は宿泊施設が少ないので、外から来た人が気軽に泊まれる場所をつくりたいんです。」
石造りの家を建てるのは大変だ。今の図書館の建物は、佐々木さん一人で、3年がかりで建てたという。だが、震災以降、ボランティアの人々が活き活きと活動するのをみて、「石の家を手作りする喜び」を共有したいと考える人も多くいるのではないかと考え始めた。

森の図書館

「世の中は既製品であふれていますが、自分で苦労をして、プロセスを経て作り上げる物事にはひときわ愛着が湧きますよね。その“作る幸せ”を味わえることが、これからの時代の“豊かさ”なのではないかと思います。」
手伝ってくれる人がいれば、石造りの家を増やしていくことも夢ではない。自らの手で作った石造りの家に、都会から大槌にきた若者が宿泊できる。そんな仕組みがあれば、大槌を訪れる人も増えるに違いない。

もともとは自分と家族のための庭をつくることから始まった佐々木さんの夢は、「風の電話」「森の図書館」を経て、大槌町に新たな交流の場をつくる動きへと発展してきている。

森の図書館
所在地:岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里9-36-9 
電話番号:0193-44-2544
営業時間 10:00~15:00 ※完全予約制
定休日 月曜
http://www.iwatetabi-sanriku.jp/post/?p=1960

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